七回目 「路地裏の迷子」つゞき 弐

hitogata utushi 人型写師

                                      


あれから、どれくらいの時間が過ぎていたのでしょうか・・

私は、暫く  その医院に寝泊まりさせて貰っていました。
日にちの感覚と時間軸の夜と昼までもが麻痺している様でした。

IMGP5367.jpg

あの人は患者が来る時には襖を閉めてしまい
絶対に入って来てはならぬと私に約束をさせました。

私が「物音を立てずに静かにしているよ」と言うと

「それは大丈夫よ、聞こえるはずないから」

とクスッといたずらっぽい笑みを浮かべて言いました。

IMGP4265.jpg

どういう事だろう・・・ 
と思いました。
言われた通りに私は奥の納戸に隠れていました。

薄々と感じてはいましたが・・
それは、患者といっても
どうやら、この世の者ではない事は察しがついていました。

IMGP5380のコピー

そのようなことが何回かあり数ヶ月が過ぎているような気がしました。
美味い自家製の酒と手料理の数々の日々・・
天気の良い日には日本庭園のように美しく手入れされた庭が見える縁側で
鹿威しの優雅な動きを眺めながら
あの人に膝枕をしてもらい耳掃除をしてもらったりと
平穏な日々が続いていました。

IMGP4817.jpg

そんな暮らしを回想し寝床に入っていたのですが、
このまま、あの人と居れるなら
もう元の生活に戻らなくてもいいじゃないかと
横しまな考えが頭をよぎりました。

深夜の3時でしたが気になってしまい、これからの話をしようと
襖の向こう側で就寝しているはずのあの人に声を掛けてみました。

するとまだ起きていた様子で
「お入りなさい」
と言われました。
IMGP4222のコピー

そして、開口一番

「 いけませぬ 」・・・

IMGP46152のコピー

えっ? 私が何も言ってもいないのに
何故私の考えが分かるのだろうか・・・

少し訝しそうな物憂げな表情をしています。

IMGP3942.jpg

「私が居る世界とあなたが生きている世界は違うのです。」
IMGP4597.jpg

「私だってあなたと・・
 と思った事もありました。

 しかし、このまま一緒にいると
 あなたには良くないのです・・・」

IMGP4714のコピー2
 
「この私のツノが見えているのなら・・見えている内にお帰りなさい。
 
 このツノが見えるのは純粋無垢な心を持っている者だけ、
 
 見えなくなれば・・
 
 私は末裔なのだから・・ きっと最後には・・・  」

IMGP4279.jpg

そうなのです、一緒に暮らし始めてから
最初はぼんやりとしか見えていなかったあのツノ・・・

IMGP3933.jpg

それが、だんだんとくっきりと見えるようになり
まるで当たり前のように気にもならなくなっていたのです。

IMGP3968.jpg

でも、見えていると言うことは
私の心が浄化されてきているということなのだろうか・・

ん、最後には・・・   ?

IMGP4789のコピー2

「さあ、元のあなたの暮らしていた あの世界へ
  
                   帰るのです」

IMGP4008.jpg

 今から私の魔力で帰る(=治す)方法は教えます、
 さあ、あの路地裏へ、お急ぎなさい。

 またあの鈴の音が聞こえる前に・・」

IMGP4394.jpg

そういえば、ここの世界では音がしない事に気が付きました。
カラスの鳴き声や、夜中に遠くから聞こえる犬の遠吠えも
庭の鹿威しの音も、襖を閉める音も何もかもがです。
夕方の終業時間には街中に鳴り響いていたはずの
勤め先の鉄工所のあの大きなサイレンさえも・・   。

聞こえるのは私の声とあの人の声だけでした。
どうやら、この街にいるのは私達二人だけのようです。

なのに、この屋敷から帰ろうとしたあの時には
確かに鈴の音が聞こえました。

何故、鈴の音だけが聞こえたのか聞きました。

どうやら、あの鈴の音は召喚の儀式の際に鳴らされる音だった様です。

それはあの人が鳴らした訳ではなく、
この世界を納めているモノが
こちら側へ誘う時に鳴らしていたのだと聞かされました。

そう、招き入れられるのは
別の世界から迷子になった・・私の様な人間。

半ば強制的に元の世界へと戻される前に
またくらくらと意識が飛んでしまった様です。

IMGP4216.jpg

目を閉じる時にあの人の穏やかな愛おしい顔を感じました。

IMGP4144.jpg



ー ー ー ー ー ー ー



私の意識が戻り、目を開くと
以前の一人暮らしの四畳半一間の古アパートの見慣れた天井の木目が
見えました、いつも見ていた節目の数さえ覚えていました。

窓の外には干しっぱなしの作業着が風に揺られぶら下がっています。
ああ、風邪で寝込んでいて何か長い夢でも見ていたのか・・
そして思い出そうとすると何故だかすうーっと記憶が消えてゆきました。
少し動くと頭痛と目眩がしましたし、体がほってっていて
微熱があるようでしたが起き上がることはできました。

それからは、また元の毎日に戻って
何の変化もない日々が淡々と過ぎてゆきました。

仕事も終わりいつもの様に家路につき
アパートの鍵をゴソゴソと鞄の中を弄っていた
その時にです。

チャリン・・

IMGP5312.jpg

あっ !

そうです。
あちらの世界への合図のあの鈴の音です。

それまで何事もなかったように消えていた記憶が
走馬灯のように頭の中を駆け巡りました。

IMGP5373.jpg


IMGP3828.jpg


IMGP5361.jpg


IMGP3943.jpg


IMGP5365.jpg


IMGP3817.jpg


IMGP9269.jpg


IMGP3957.jpg

ああ、あの出来事は全部・・

夢なんかではなかったのだ・・・・


そして、今度は部屋のすぐ前まで来ているのだと察しました。

しかし、不思議と怖いとは思いませんでした。
またあの世界に行くことが出来るのなら・・・

IMGP3773.jpg

しかし、今度はこちら側には帰って来れないとも本能的に感じました。

また、くらくらと意識が遠のいてゆくのと同時に
私はその望みを全身全霊で念じていました。


あの人と会えるのならば・・・

IMGP4328.jpg

永遠にあの路地裏でずっと迷子になっていたい・・    と。


====終わり====                              ※各写真を押すと心の内面が見られます



前回から更新するまでに約一年も時間が過ぎていました。
頻繁に更新されている方々は本当に凄いなと感じております。
ブログを作るのは写真選びや配置、物語の創造など色々と大変ですね、
ものぐさな私には・・

2 Comments

まだコメントはありません

tuckyです

久々に

お邪魔します!
相変わらず、すごい世界観です👍
引き込まれながら、ぞくぞくしますね😂
それにしても、インテリアの品々が、世界観を巧く引き立てていると思います‼️

  • 2023/07/31 (Mon) 00:01
  • REPLY

ぺぺろん

Re: 久々に

tuckyさん お久しぶりです (こちらではw)

文章は書き上げていたのですが
写真が沢山あり過ぎて、どれを載せるかなかなか決まりませんでした。

インテリアの蒐集癖が膨張し続けていて
家の中に溢れています 😊

  • 2023/08/01 (Tue) 11:38
  • REPLY
ぺぺろん