五回目 使いの者 後編
都会の喧騒が感じ取れる喫茶店のテーブル席でした。
ああ、どうしたんだろう・・ 疲れていたからか・・
少し睡魔にやられたかな?
そんなことを考えていると・・・
向かい側に座っている、普段着姿の栞が
ちょっと、ぼーっとしている私に話しかけているところでした。
そうなんです・・・いつものように私だけには見えているのです。
栞ぎつね様の耳は。
ねえねえ、聞いてー。
人間には誰でも、実家ってあるでしょ?
夢でね、たまに見るんだけど。
どうやら実家にいるみたいなの・・・
なんか古い城下町みたいな景色なんだけど・・
私、あんまりよく覚えていないんだ、昔のこと。
そんな話を少し怪訝そうな面持ちで栞は私にしていたところでした。
おや、なんか待てよ・・・と考えていると、
突然、私の脳裏に夢の中に出てくる景色と城下町の風景がシンクロしたのです。
その景色の中に強い風でなびく黒髪の女性の姿が見えました。
今度は、はっきりとです。
そうです、夢の中に何回も出てきては顔を思い出そうとすると
消される・・・ ん?
消される?! 消えるでなく確かに今、私は消される・・
という認識で思考回路が働いた筈だが・・・
何故だろう?
消されるとはどういうことだ・・
そんな事を考えていた時に
その黒髪の女性がこちらに話しかけようとした瞬間に
私の視界は黒く隔たれられました。
私はハッと我に返り、栞を見ると
懐かしそうで不思議そうな表情で私を見つめていました・・・
すると頭の中に言葉というか段々と声になって聞こえたのです。
「私を離さないで・・」
栞のその囁き声が聞こえた瞬間に
私は広大な宇宙空間の中に包まれているような感触を全身で受け止めました。
大きな光を浴びているような感覚でした。
その途端、思考回路が増幅され閃き理解出来たのです。
突然、私は悟ったのです、その意味を。
あの夢の中に出てきていた女性は栞だったのです。
出会う迄のかなり前から、そう、あれは私が思春期を迎えようとしていた頃でした。
夢の中に幾度も出現し、大事なコトを伝えようとしていたのです。
しかし、事あるごとにあるモノに邪魔されてきたのです。
そして、あるモノから私を守る為に防御する為に
己心の魔を捨てる様に伝えようとしてきたのでした。
私の未来に出会う予定の彼女と何十年も前から
既に逢っていたのでした。
私は彼女の手を取り握りしめました。
それだけで不思議そうな顔をしていた栞は
何とも言えない安堵の表情になりました。
そうこうしているうちに私の目の前からすうーっと煙のように消えてしまいました。
そして私も気が付くとこの地球という星から存在が消えて無くなっていました。
もう以前の私が持っていた己心の魔というものはきれいに無くなっていました。
全てがキラキラと輝いていて、愛おしくさえ感じました。
さあ、これから新しい旅が始まるわよと栞は話しかけていました、
しかしそれは声ではなく頭の中に直接話しかけてくる対話のような形でした。
私達は無くなったのではなく
新たな世界へ新しい次元に旅立ったのです。
一人ではなく、
栞といっしょに二人で。
私達の座っていた角奥の席には
二つの珈琲カップだけがポツンと残っていました。
それは、相変わらずの都会の喧騒と店内客の珈琲カップの戯れる音が
静かに混ざり合っていく、穏やかな三月初旬の出来事でした。
それから、いくばくかの時が流れ・・
私はある人物の夢の中で大事なコトを伝えようとしていました。
性別も変わり・・・
使いの者として。
終わり
追記
今回は新たな物語を思い付きまして、またもや文章を書き留めておりました。
後半をどうしたものかと、大筋は考えてはありましたが・・
急な展開など、つっこみ所が満載でしょうが、ご容赦下さいませ笑
初めての和風な雰囲気にご満悦な栞ぎつね様❤️
撮影後の普段の大人っぽい栞さん ♬
※因に今回は各写真をクリックすると栞嬢が心の内を呟いているのが見れます。