※ 写真を押すと栞嬢の心の内が見られます。
あれは十数年前の出来事でした。
仕事も終わり、油にまみれて真っ黒になった手を洗い身支度をし、
長くそびえ立つ煙突からモクモクと煙を吐き出している鉄工場を背にして
帰宅していた時の話です。
私は何故だか普段は通りもしない道から帰ってみようとふと思い立ちました。
川沿いに続く一本道を歩いて行くと右に曲がる道は幾つもありましたが、
何の気なしに此処でいいだろうと気まぐれで曲がってみました。
薄暗い通りを進んでいくと何番目かの十字路を自宅の方角へと
大体の見当をつけて曲がり、細い道が暫く続いていたのですが
何時からか 直線では無く曲がっている道に変わっていました。
更に進んでいくとくねくねと曲がりくねった道が続いていました。
もう右や左と何回曲がって此処まで来たのでしょうか?
まるで入り組んだ迷路の様で引き返したとしても戻れそうにありません。
どんどんと細くなって人が一人通れるか位になった道から
その先の路地裏に出くわした時に
何だかいつもとは違う知らない町の様に感じました。
急に怖くなって早く家に帰らなくてはと焦っていたのを覚えています。
びっしりと旧い木造の民家が犇めき合うように立ち並んでいます。
殆んどが歪に傾いていて二階の面が道側に飛び出している様な家もあります。
木造とトタンの朽ち果てた物置小屋の様な残骸もあってとても寂れています。
道の脇には共同の井戸があり鉄製の洗面器が転がっていたり
相当年季の入った錆びついた子供の三輪車が倒れて放置されている様です。
しかしまだほんの夕方だからなのか
不思議と周りを見渡しても明かりが灯っている民家も無く
辺りはひっそりと静まり返っていて、誰も居ないような・・
人が住んでいる様な気さえ・・・ 。
もう夕飯を作っていてもおかしくない時間だというのに・・
そんな事を考えながら進んでいると日も落ちて暗くなっていました。
すると小さな明かりがうっすらと見える旧い屋敷が目に留まりました。
あゞ、此処には人がいるのかもしれないなと思い
立派な石造りの門をくぐり玄関の呼び鈴を鳴らしてみました。
呼び鈴の横に木製の表札が掛かっているのですが
相当古いのと雨風が当たってきたせいなのか
書いてある文字がうっすらとしていて読めませんでした。
しかし個人宅にしては大きな表札だなとそんな事を考えながらも
何度も「すみませーん」と声をかけてみました
しかし中からは一向に返事がありません。
でも、道を聞かねばと私は勇気を出して
引き戸を開け、また声を掛けながら上ってみました・・・
少し空いている襖から、そのうっすらとした明かりが漏れているのですが、
全く人の気配を感じないのです。
なんだ、出掛けていて留守なのかと思い
帰ろうとしたその時に
チャリン・・
小さな鈴の音が聞こえたのです。
えっ?
確かに聞こえた・・
誰か病人でも寝ているのだろうか・・
私は恐る恐るその襖に近づき、そおーっと中を覗いてみたのです・・
あ っ ・・・
そこには着物姿の女性が机の向こう側を向いて座っていたのでした。
あゞぁぁ・・ 、 突然のなんという妖しい光景でしょうか・・
驚きさえも声になりません・・
どの位の間 いや、たったの その数秒間がとても長く感じました。
その人は私に気が付いたのか、
回転式の椅子をゆっくりと、こちら側に回して振り向いたのです・・
すると・・ 腰が抜けてしまいそうになる程の何とも形容し難い
美しい女性でした。
その人は特に驚いてはいない様子でした。
私の方は急な出来事とその妖婉さに・・ 廊下に立ち尽くしていました。
すると静かな口調で、
「そこにお座りになりなさい」と初めて言葉を発しました。
そして、少し怪訝そうな表情をして
こう聞いてきました。
「あなたには私が見えるのですか?」と・・
私は頷くのが精一杯で声が出せない程でした。
「あなたは何処からどうやって此処に来たのですか?」とも・・・
答えようとしても今までの道のり等のことは思い出せず
それに質問が何を意図しているのかさえ、さっぱり見当もつきませんでした。
薄暗い部屋の中を改めて見回してみると、
いろいろな医療器具やら不思議な物が所狭しと置かれていました。
懐かしの・・少年時代の理科室・・ 母に連れて行かれた町角の理容室・・
旧い色付きの薬瓶達
ということは、この人は医者なのかとその時に気が付きました。
あゞ、玄関のあの大きな表札は醫院の看板だったのかとも・・
ただただ、私はその美しい姿に見とれ、
その黒々とした円らな瞳に見つめられると、
何だか別の世界に吸い込まれてしまいそうな、そんな感覚に落ち入りました。
そして急に頭がくらくらとし、ぼんやりと遠のいてゆく意識の中で、
その人が私の顔を覗き込んでいる時の事です・・
それまでは気が付かなかった、いや・・見えていなかったような・・・
その人の頭の上に何か淡く薄いような 言葉では言い表せない不思議な色をした
二つの突起が見えたような気がしました・・・
しかしその時には既に別の世界に当の私がいる事など知る術も無く
私は彷徨って迷子になっているという自覚さえもなかったのです。
私はどうやら、
知らない内にとある町の路地裏の幻想の世界に紛れ込んでしまった様です。
これは夢なんだと夢の中で気が付かないのと同じ様に・・
つゞく
Special thanks
変幻する水面のような鬼のツノ ♦︎ Oni No Tsuno like the changing surface
of the water
鬼のツノ製作アーティスト ♦︎ Oni No Tsuno Made by the artist ♦︎ furuboro 縫の 様
追伸 いつの間にかブログの運営会社が変わってログイン方法やパスワードが
分からなくなってしまい放置状態になっておりまして失礼致しました。
相互リンクをして下さっているドーラーの皆様にも
大変申し訳なく思っておりました、大変失礼致しました。
※あと私のインスタグラムは現在停止中となっております。
違反理由が不明瞭のため、復活できるかは分かりませんが
解除待ちでございます。
突如、消えたかのようで
心配なさっている方々もおられると存じますが、
また復活出来た暁には改めてご挨拶させていただきます。
心配して下さっている方々へ、本当に有り難うございます。